ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
「開催日って、27日よね?」
「そうよ、年の瀬の忙しい時なのに」
「旦那さんのところも?」
「そちらはおうちにいらっしゃるわよ。でも、お姑さんには預けにくくてね」
杏子は肩をすくめる。
家族とはいえ、やっぱり他人でしかない義母には気をつかうところが多く。
同窓会に行くから子どもの面倒をお願いします、とは言いだしにくいんだろう。
いくら同窓会といっても、はたからすれば、母親業をサボって遊びに出かけるのと大差はないだろう。
「行きたかったのになあ」
不服げに杏子は唇を尖らせる。
「そっちは? 行くつもりなの?」
「私?」
「もちろん、ほかに誰がいるのよ」
「実は、迷ってるんだよね……」
テーブルに片肘をついた時、店員さんがコーヒーを運んできた。
静かにテーブルに置いて、会釈して立ち去るまでふたりとも妙に無言だった。
コーヒーの芳しい匂いが鼻腔をくすぐる。
「迷ってる、って?」
コーヒーに少量の砂糖とたっぷりのミルクを入れたあと。
ミルクピッチャーを私のほうへ引き寄せながら杏子は首をかしげて、シュガーポットはテーブルの脇へそっと寄せる。
私がコーヒーにはミルクしか入れないことを、杏子は覚えてくれていたのだ。
はっと何かを思いだしたのか、一瞬目を見開いた杏子が私をじっと凝視してくる。
何かを確認するようなしばしの間を置いて。
おもむろに口を開いて放ったのは。
「もしかして、外村(とのむら)くんのこと、関係してる?」
飛びだした名前に、勝手に鼓動が加速を始める。
10年が経過した今でも名前を耳にするだけで胸が高鳴るなんて、どうかしているとしか思えないけど。
それでも、想いをまだ消せずにいた現実を突きつけられて、ショックに襲われる。