ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
notice 08 悔い
こんなことになるのは、宏之が来ると知った時点で想定内のはずだった。
誘われなければ、こっちからしかけるつもりでいた。
同窓会の時間だけでは語り尽くせないほどの言葉が溢れてくるのは、もとからわかっていたからだ。
いざこうなってみると、妙に緊張感に襲われる。
10年前のあの日。
別々の道を歩くのを選ばざるをえなくなったあの日以来、宏之の隣を歩くことはなかった。
こうして隣に並んで思う。
宏之って、こんなにも背が高かっただろうか。
おそらく、陽平よりも高い。
しなやかな体躯は大柄というほどではないけど、見あげないと視線が合うことはない。
記憶の中では、もう少し低いものと思っていたのに。
陽平のそばにいすぎて、感覚がぼやけてしまっただけだろうか。
それにしたって、記憶なんていい加減なものだとつくづく実感する。
「このへんもずいぶん変わったなあ」
宏之のつぶやきに、そうかな、と首をかしげる。
東京で暮らす宏之にとって、過去の街だ。
私にとっては、現在進行形の街だけれど。
「ドラッグストアなんかいつできた?」
「レンタルショップがつぶれたから」
「マジか、俺、超のつく常連だったのに」
「いかがわしいのでも借りてたの?」
「そりゃ、健全な男子ですから」
やっぱり、初めて部屋を訪れた時、その手のビデオを巧妙に隠していたのか。
どうりで、きれいに片づきすぎていると思ったわけだ。
今になって得心がいっていると。
コンビニもできてるー、と宏之は驚嘆の声をあげる。
コンビニなんて、できてけっこうたつのに。
宏之は知らなかったんだ。
宏之がこの街を去ってから様相を変えたところは、ほかにもいっぱいあるだろう。