ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
ほんとに好きで、すごく好きで。
あの頃は、そばにいるのが当たり前だったのに。
だからといって、杏子が今でも彼の名前を覚えているなんて。
思いもしなかった。
動揺をごまかすためにコーヒーをすすってみるものの、熱い液体が喉を流れていって顔をしかめる。
「きっと来るんじゃないかな、外村くんも。成人式に出られなかったの、すっごく悔しがってたって話だったし」
「通行止めにあって、来られなかったんだっけ」
成人式の前日に、例年にない大雪が降ったのだ。
都心でも一部の箇所で20センチ以上の積雪を観測した、とニュースで報じられた。
新幹線も飛行機も運行を見合わせ、路面も凍結している状態では交通網はその機能をまったく果たさず。
大学進学で上京していた彼は、駆けつけることができなかった。
そのまま東京で就職したと人づてに聞いた。
別れてから今まで、彼とは一度も会っていない。
連休ごとに帰ってきているようだけど、なぜか再会には至っていない。
避けられているのか、会いたくないのか。
偶然なのか、彼の意志なのか。
「でもさ、来るかな。27だよ、同窓会」
「なんで」
「だってさ、翌日も仕事あるんだから、来ないんじゃない?」
カレンダーでは、同窓会の開催される27日は日曜日だ。
私の会社は翌日の28日が仕事納めとなっている。
一般的な企業も同様だと考えるのは、たやすい。
同窓会で集まるとはいえ、仲のよかった者同士、自然な流れの中で二次会に発展することも考えられる。
そんな中、翌日も真面目に出社するなら、彼は最終便でまた戻らないといけないことになる。
となれば、同窓会には参加しても、二次会には向かわないということか。
なんともせわしない。
「それはあんたが心配することじゃないでしょ。外村くんが決めることよ」
「そうだけど」
まだ湯気の立ちのぼるコーヒーに息を吹きかける。
会いたいんだろうか。
会いたくないんだろうか。
10年もの年月が過ぎる間に一度でも再会のチャンスが訪れていたなら、たかだか元彼に会うのに臆病にならずに済んだのに。
会いたいのかどうか。
私自身が、その答えを見いだせていないのだ。