ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
3年のクリスマスにピアスをプレゼントされたのが、この公園だった。
学校帰りに寄り道をして、宏之がおもむろにスクールバッグからとりだしたのだ。
『ピアスなんだけど、絶対おまえに似合うと思って』
自信満々に笑った宏之の顔を、今でも覚えている。
凍空の下、冷えきった唇を受けとめた。
けれど。
年明け後、受験勉強の最後の追いこみに躍起になる宏之のそばにはいづらくて。
遠慮する気持ちから、私から少しずつ距離を置いた。
合格の報告を受けるまで、メールのやりとりさえも最低限にとどめた私にとっては。
今にして思えば、それが宏之との最後のキスとなった。
それだけに、何よりも思い出深い場所で。
別れた直後はこの場所に足を向けることさえ、怖くてできなかった。
前を通りかかるたびに、宏之の屈託のない笑顔と冷たい唇の感触が否応なく思いだされては、胸がずきずきと悲鳴をあげた。
うつむいたまま、泣くまいと唇をきつく噛みしめて。
早足で通りすぎた。
10年もたって、こうしてふたりで訪れる日が来るなんて。
あの時の私に想像しえただろうか。
「今日、つけてくれたんだな」
「気づいてたの?」
「もちろん、ひと目見てわかったよ」
「どう?」
「似合ってるよ」
「よかった、初めてつけたから」
頭上の木々を仰視する。
街灯に浮かびあがる桜の木に、花は咲いているはずがない。
固く閉じたつぼみが、春を待つだけだ。
けど、想い出の中で咲き乱れる桜のように、私の目の前では満開の桜が咲く。
そよ風に淡いピンク色の花びらが、可憐に舞いおどる。
ひらひら。
ひらひら。
花びらが、ピアスへと姿を変えたようだ。
「今日の服も、似合ってた」
見あげていた私に、宏之の声がかかる。
え、と驚愕して視線を転じる。