ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
「おまえって赤系の服って、あんま着てなかったように思うから、そういうの見るの、新鮮だな」
デートの時でもモノトーンや、寒色系の服を好んで身につけていた。
暖色系の色は、自分には似合わないと思いこんでいたのだ。
宏之の前では、女の子らしいかわいい格好をしたかったのに。
髪の毛は長く伸ばせても、ピンクやレースやリボンのついたかわいい格好をすることに、抵抗感は拭えなかった。
もっとかわいい格好をしていれば、ずっとそばにいられたかもしれなかったのに。
別れたあと、そんな思いが胸裏をよぎった。
自分では選ぶことがないだろう色合いに、腰が引けそうになっていたのに。
コートの下に身につけたワンピースを、宏之が気にとめてくれていたなん
て。
裾が風にはためく。
袖からのぞくフェイクファーが揺れる。
「これ、杏子が選んでくれたの」
「杏子って、設楽(したら)のことか」
「今は結婚してるから、設楽じゃないんだけど」
「おまえら、仲よかったもんなあ」
「こないだもお茶した」
「へえ、今も仲いいんだな」
「そういう宏之だって、堀くんと仲よかったじゃない」
ふと、思い当たった名前だった。
私に冗談ばかり言っては、さんざんおちょくってきた彼の顔が思い浮かぶ。
同窓会では見かけなかったけど、きっと、私用で不参加だったんだろう。
私は堀くんにからかわれるのがどうにも嫌で。
それを理由に、サッカー部の練習から足が遠のいていったけど。
宏之は仲がよかったんだから、今も堀くんと連絡をとりあっているんじゃないだろうか。
「まあ、確かに年賀状くらいなら来るけど、男同士でお茶しに行くのは、さすがにないな」
「それもそうだね」