ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
宏之は目を細めて、桜の木々を振り仰ぐ。
のけぞったきれいな喉が、ぼうっとした月光に照らしだされる。
その瞳には、何が映っているんだろう。
あの時、満開に咲いていた桜だろうか。
それとも。
最後のキスの時の、枯葉だけを残したさみしげな樹木だろうか。
相反するようなふたつの想い出のどちらのほうが、宏之の記憶により強く印象づけられているんだろう。
「悪かったな」
見あげたまま、ふと、宏之が小さくつぶやく。
「なんのこと?」
「おまえに何も言わずに勝手に東京の大学、受験して」
「いいよ、もう、今さらだし」
「うん、今さらなんだけどさ。謝っておかないと、俺の気が済まないから」
宏之はずっと気にかけてくれていたんだろうか。
だったら、どうしてあの時きちんと教えてくれなかったんだろう。
前もって教えてくれていたなら、私だって遠距離恋愛をする覚悟ができたかもしれない。
それに何より、卒業式を終えたあとで、あんなふうに責めることもなかったかもしれなかったのに。
今さら謝罪されても、何も戻せない。
別々の道を選択した現実は、今さらなかったことにはできないから。
同じ道を進むことは、二度とできないから。
「ずっと、ずっと、後悔してたんだ」
「後悔?」
後悔していたなら、あの時、もっと別の方法を選べたんじゃなかったんだろうか。
私と宏之がずっと一緒にいられるすべを模索することだって、できたんじゃないんだろうか。
新幹線の時刻を私に伝える以外の方法が、あったんじゃないだろうか。
さまざまな想いが去来するも、それでも、何ひとつ口には出せず。
下唇をきつく噛みしめる。
「実はさ、3年の夏前ごろから堀からおまえのシュートにキレがなくなった、ってダメだしされつづけててさ」
とつとつと宏之が話す。