ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
堀くんが、そんなことを。
そんなことが起きていたなんて。
そばにいたのに、何も知らなかった。
私の驚愕をよそに、宏之は続ける。
「堀と俺で一人前みたいに言われるのが嬉しいと思う時もあったけど、それすらも鬱陶しくなって。だから、堀から逃げたくて東京の大学を受験した。だから」
いったん言葉を区切った宏之が、こちらへと顔を向ける。
だから?
その先を聞くのは、少し怖い。
コートをぎゅっと握る。
薄く笑う宏之が、言葉を紡ぐ。
「おまえには関係ないことだった。巻きこんじゃ、いけなかったのにな」
悲しげな笑みを見ていられない。
自然を装って、わずかに視線を外す。
今さら過去を悔いても、もう遅い。
そんなことは宏之だって、わかりきっているはずなのに。
私には何も返せない。
気持ちも。
言葉も。
もっと早くに再会していたら、何かが変わっただろうか。
宏之の想いを、受け止めることはできただろうか。
「こっから高校って、近かったよな」
うつむいた私に、低音が降ってくる。
え、と顔をあげる。
「近いのは近いけど、なんで」
「行ってみないか」
「今から?」
「もちろん」
当然のように返される。
宏之は背をひるがえし、今来た道を戻っていく。
宏之と、高校へ行く?
卒業以来、一度も足を運ぶことのなかった高校へ?
宏之は、どんな思いでそんなことを提案したんだろう。
どんどん遠ざかっていく宏之の背中を、慌てて追いかける。
隣に並んでも、今までとは違うドキドキに襲われる。
緊張で、胸が痛い。