ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
「……開いてないじゃん」
せっかく来たのに。
嘆息とともに、悲観めいた声がこぼれた。
かつての学び舎だった建物は、周囲を闇に包まれた視界の奥にでんと構える。
記憶に刻まれているその外観は、何ひとつとして変わっていない。
見るからに重厚な重量鉄骨は、4階建てだ。
たぶん、校内の配置は今でも忘れていない。
1階は保健室や、放送室。
2階の端に設けられた職員室の隣は、校長室で。
そのまた隣は、小会議室なるもので。
生徒会室があって、その横から教室が続く。
3、4階は教室ばかりがずらりと並んでいて。
選択授業だった音楽室、美術室、書道室は、手前に見える校舎の向こうの、渡り廊下を挟んだ別館内に位置している。
図書室や視聴覚室、調理実習室なども別館内にあった。
郷愁にも似た感情が、胸裏に突きあげる。
だけども、懐かしい想い出に浸る侵入者を阻止するように、正門は無情にも施錠されている。
開錠されていないと知るや、生半可じゃないほどの落胆に襲われる。
先ほどまでは感じることのなかった身を切るような風の冷たさに、耳がじんじん痛い。
何を開いているなどと思いこんだんだろう。
勘違いもはなはだしい。
閉まっていて当然だったのに。
たぶん私は、自分でも思う以上に浮かれあがっているのかもしれない。
私の身長よりも高い、黒い鉄柵をにらみつける。
ちょっと頑張れば、のぼれないこともない高さだ。
けど、ワンピースなのに大股を広げてのぼるのは、どうにも気が引ける。
そんなはしたない真似など、宏之の前でできるはずがない。
再度、吐きだした白い息が、闇夜に溶ける。
「裏門も開いてなかったよ」
ブロック塀づたいに、裏側に回って確認してきたらしい宏之が、息を切らしながら駆け寄ってくる。