ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
「ま、考えてみりゃ、開いてなくて当然だよな」
「冬休み入ってるしね」
「いいよなあ、高校生は。冬休みがあって」
「何言ってんの、私たちだって昔はあったじゃない」
今は、年末年始を挟んだわずか1週間程度の休みしかなくても。
そりゃそうだ、と素直な同意を見せて、宏之はファーフードのついた、ダークグレーのダウンコートのポケットに両手を突っこむ。
ダウンコートとスーツのコーディネートは、妙にちぐはぐだ。
東京よりもこっちのほうが寒冷だと考慮したうえで、そんな組みあわせをあえて選んだんだろう。
「どうすっかなあ」
どこもかしこも施錠されていると知ってもなお、どうやって校内に忍びこもうか考えあぐねているらしく、思案げに眉根を寄せる。
ここまで来ておきながら、引きさがる気はさらさらないんだろう。
往生際が悪い。
でも、侵入できる手がないなら、潔くあきらめるしかないのだ。
「ねえ宏之」
帰ろうよ。
寒いから。
宏之とここまで来られただけで、もう満足だから。
また今度、来ようよ。
諦念を促そうと、ダウンコートの袖をちょんちょんと軽く引っ張った時。
何かを思いだしたのか、あ、と宏之が大声をあげた。
「どうしたの」
「抜け道があったの、覚えてない?」
「……そういえば、あった、かも」
記憶の片隅におぼろげながらも残っている。
グラウンド脇のブロック塀が、一部だけ金網フェンスになっているところがある。
ふだんはその前に置かれたプランターのせいで、一見するだけではわからない。
けどそのプランターをよけると、左隅の支柱から裂け、ぐにゃぐにゃに折れ曲がっている。
おそらく、テニスボールか何かが、何度か激突しているうちにどんどんひどくなっていったんだろう。
小さくかがめば、大人がひとり、通り抜けられるほどにまで拡大していた。