ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

そこを抜けて、宏之と授業を何度かサボったことがある。

映画館に行ったり、カラオケに行ったり。

昼間の街を、あてもなくぶらぶらと歩いてみたり。

ふたりきりになることで、親密度を高めていった。


そんなふたりの想い出のひとつでもあるけれど。


でも。



「あるかなあ」



卒業して10年がたつ。

抜け道をいつまでたっても、みすみす見逃しつづけるとは、とうてい思えない。

フェンスごととり払われ、すでにブロック塀に変わっている可能性は、なきにしもあらずだ。



「とりあえず、行ってみようぜ」



なかったらなかったで、その時はあきらめるし。

やたら調子が軽いのは、アルコールのせいだろうか。

おまけに、足どりまでもがリズムを刻むように、どことなく浮ついている気がする。

なんとなく気おくれすらしながら、後ろをついて歩く。





「見ろよ、まだあるぜ」

「え、ほんと?」



暗がりのせいで目をこらさないといけないけど、宏之が指さす先には、大きくめくりあげられた金網がある。

まだ残っているなんて、信じられない。

位置が死角になっているせいだろう。



「きっとさ、俺らみたいに抜け道に利用してるやつ、まだいるんだろうな」

「そだね」



素直にうなずく。

私たちが利用していた頃よりも金網の穴が若干程度、大きくなっているように見えるからだ。


宏之の言うように、この大きく開いた穴をくぐり抜け、街へくりだす生徒がいるんだろう。

校内では、細かい校則に支配されているように思えてならない。

ここから自由を求めて駆けだすのだ。


あの頃の私たちがそうだったように。



「では、行きますか」



飛びだしていくために何度も何度も通った場所を、逆行する日が訪れるなんて。

時の移り変わりは、えてして妙だ。

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