ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

なんて答えたらいいんだろう。

なんて答えれば。

OKしても、いいんだろうか。


左手を覆い隠すように添えた右手の指先には、陽平からの指輪が触れているというのに。

婚約している段階のキスは、浮気に相当するだろうか。

ばれたら、婚約破棄だろうか。


いろいろなことが思い浮かんでは消えるものの、妥当な返事は思いついてくれない。



それはきっと。

私自身に拒否する意志が、皆無だからだ。

そのことを見抜いたのか、宏之の顔がゆっくりと接近してくる。




次の瞬間。

至近距離にまで迫った宏之と、唇が重なりあう。


柔らかい感触は、陽平のとは異なる。

触れあわせ方が異なる。

口づける角度が異なる。



でもやっぱり。

ああ、このキスだ。

磁石みたいに引っつきあって、なんでか、妙にしっくり来る。



でも。

でも。



どうして陽平の顔が、残像のように脳裏に思い浮かんでしまうんだろう。



「……ごめん」



唇が離れた一瞬の隙をついて、遮るように顔を伏せる。

ごめんなさい。

やっぱり私、陽平を裏切ることは、できない。


キスしてやっとわかった。

宏之とのキスは、罪の味がした。


だから、話さなきゃ。

本当のことを話さなきゃ。



「私、結婚するの」

「知ってるよ。指輪、気づいてたから」

「え?」



そんな、まさか。

いつから。

気づいていたのに、私とキスしたって、どういうこと。

いろいろ訊きたいことはあるけれど。



「ごめん」

「謝らなくても、いいよ」



再度、謝罪を口にしたら、返ってきたのは、意外な言葉だった。

うつむいていた顔をぱっとあげる。



「知ったうえで誘って、知ったうえでキスをした」

「……なんで」



訝しげに問い返す私に、わからない? とでも言いたげな瞳が見おろされる。

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