ひな*恋
日差しの暑い道を慎吾くんに手を引かれながら歩き、私たちは商店街のスーパーに来た。
お店の中はエアコンが効いていて、かいた汗がスゥっとひいていく。
「えっと…何を買ったらいいのかな。
慎吾くんの家には、今どんな食材がある?」
うちの店で出しているものは、どれも業者から取り寄せた半加工のお肉に生の野菜。
それから、揚げるだけでできるような冷凍ものだ。
誰がどの担当にもなれるよう、私だって一通りのマニュアル調理はできるつもりでいる。
「食材?
うちには食材なんてものは、一切ないよ?」
「えっ、一切って事はないでしょう。
冷蔵庫の中には、どんなものがある?って意味なんだけど…」
「冷蔵庫?
昨日の残ったおかずと、麦茶と牛乳と炭酸かな」
「…………………」
冗談なんかじゃないのかも。
普通なら卵を始め、ジャガイモとか人参とか玉ねぎとか。
いわゆる冷蔵庫に眠ってそうな3大保管野菜がありそうなものだけど。
…本当に慎吾くんの家の冷蔵庫には、リアルに余り物と飲み物しかないような気がしてきた。
さしあたりリンゴサラダだから、リンゴにジャガイモとキュウリと卵とハムは買わなくちゃならない。
「あ、うち調味料もないから」
「…………………」
…それと、塩コショウにマヨネーズかな。