ひな*恋
「さぁて、じゃあお母さんは晩ご飯の支度するからね」



「あ、待って!」



クルリ踵を返して台所へと向かうお母さんを、私は呼び止めた。



通常私が仕事の日は、いつも残った惣菜を食べる事が多いんだけど。

でも休みの日は、当然もらえる惣菜はないので普通に作っている。



だけどそれは、私じゃなくてお母さんが。



目は悪くとも全く見えないわけじゃないので、ご飯は作る事ができるのだ。


そしてお母さんがそんなだから、私もそれが当たり前な感覚なので、特に手助けしたりとかそんな事もなかったわけだ。



…だけど。



「お母さん、今日の晩ご飯って何かな。
もし良かったら…作り方とかいろいろ教えてくれない?」



「雛、あんたどうしたの?」



ずっとおんぶに抱っこだった私が急にそんな事を言うもんだから、お母さんもビックリしたように振り返った。



「いや、その…。
改めてお料理とか、ちゃんと知っときたいかなって思って…」



うちの店の肉じゃがは美味しいから、それで慎吾くんに食べさせてあげたかったんだよ。


今日は不甲斐なくてカレーになっちゃったけど、次はまともなおかずを作ってあげたいって、そう思ったの。



「…いいよ、教えてあげる。
雛もいよいよ、花嫁修行する気になったのね」



「は 花嫁修行って!
そんなんじゃないったらぁっ」




やっぱり女だもん、料理くらいはできなきゃ困るでしょ!


って、今更偉そうに言っちゃいました。







< 131 / 322 >

この作品をシェア

pagetop