ひな*恋
以前は仕事の帰り道で、私にナンパをしてきたおっさんに声をかけられそうになった所を助けてもらったの。


仕事中はまだ他のスタッフもいるし、まわりの目があるからそんなに危険性は感じなかったんだけどね。


でもあの時は仕事も終わった時間だし、何より空も暗い夜間だったから本当に怖かった。



だけど今イチゴバラさんの言う、“個人的な理由”での“送らせてもらえませんか”っていうのは、やっぱり……




「…1階の正面玄関を迂回した裏口で、待っててもらえますか?
仕事終わったら、私もそこから出るので…」




ドキン ドキンと、心臓が大きく鳴り響いてるのが自分でもよくわかる。



断る事だって、できた。


だけどそんな変な意味じゃないと思いつつも、私はイチゴバラが言おうとしているその言葉を最後まで聞きたいって思ったのよ。


なんて言うか…イチゴバラさんって人に、私も興味があったから。




「裏口…わかりました。
ではそこで待ってますから、妹尾さんはゆっくり来て下さいね」



「あ、はいっ
なるべく早く、行きますからっ」



私の返事を聞いたイチゴバラさんは安心したのか、フッと優しい笑みを見せながら背を向けた。




この後はレジの清算をして、今日の売り上げ金を仕分けたら仕事も終わり。


いつもなら10分ほどで終わらせる作業なんだけど…



(お 落ち着かなきゃ…!)



レジの清算ボタンを押す手が、既に緊張感に耐えれず小刻みに震えてしまっていたの――…。










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