ひな*恋
止めた足を再び動かすと、私たちはいつも別れる交差点の所まで来て、また止まった。


そのすぐ横には、本屋さんがある。


その本屋さんの横を更に通り越して行き、あの見える青い屋根の家が盆子原さんの家だ。


あの家には今きっと、お父さんの帰りを待ってる慎吾くんがいるんだね。



「それじゃあ盆子原さん、おやすみなさい。
明日、改めて連絡させて頂きますね」



「うん、ありがとう。ゆっくりでいいとは言ったけど、でも待ってるよ」



「はい…」



期待されると早く応えたい気持ちはあるんだけど、でも今だけはできない。

罪悪感を感じながら、私はペコリと軽く頭を下げた。


明日はなるべく早く盆子原さんに連絡しよう。

それと、登録してる慎吾くんの情報は、履歴も含めて削除しなきゃ…。




「…雛子さん」



「あっ、はい…っ」



と、突然下の名前で呼ばれてドキッとした。

そういえばさっき教えたんだから、呼ばれて当然かもしれないけれど。




「雛子さん…」



「はい?盆子原さ…
ん…っ」



頬に手を添えられて、私の唇に盆子原さんの唇が重ねられた。


もちろんここは外だし、側には車も通っている。



「愛してます。
本当に、愛してます。雛子さん…っ」



「ん…ん…っ」



帰る前にした短いキスとは違って、今度は唇を割られ舌を絡めてきた大人のキス。

強く、強く私を求められてる事がわかり、ズキンと胸が痛んだ。




“愛してます”


私も早く、堂々と盆子原さんにそう言えるようになれればいいのに。



そんな事を思いながら、私は盆子原さんと大人のキスをしていたの…。












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