ひな*恋
まだお昼には少し早い時間だから、店内には他のお客さんも殆どいない。



4人掛けのテーブルに盆子原さんと向かい合うように座ると、私はバッグを隣の空いたイスの上に置いた。


それからやがて黒い上品な服に身を包んだ店員さんがテーブルに来ると、氷の乗ったお冷やのグラスを2つとメニュー表を出してくれた。



「雛子さんの好きなものを、何でも選んで下さいね。
食後のコーヒーも、もちろんどうぞ」



「…ありがとうございます」



パスタやハンバーグ、オムライスなど。
いろんなランチメニューが写真と共に書かれている。


美味しそうな色とりどりの写真とは裏腹に、だけど今の私には食べ物が喉を通る自信がまったくなかった。



後からここに同席してくるらしい慎吾くん。


私と盆子原さんが一緒のテーブルに着いてる所を見て、どんな顔をするだろうか。


それとも、ここにいるのが私だってもうお父さんの口から聞いたのかな。



…怖い。

いつやって来るのかわからない分、ソワソワしちゃってメニュー表よりも窓の外ばかり見てしまう。



来ないでほしい。

…じゃないんだけど。


もうどうなったらいいのか、それすらもわからないよぉ。




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