ひな*恋
「じゃあ、雛子さん。
また夜に、行きますので」



「…あ あの…っ」



「…………」




仕事の書類が入ってるらしい茶封筒を抱えたまま病室のドアを出ようとした盆子原さんは足を止め、言いにくそうに話す私に若干眉を下げて見つめた。



「……………何だか、雛子さんは僕に言えない事があるんじゃないでしょうか」



「――――っ」



そんな言葉に、私はハッとして盆子原さんの顔を見た。



不安そうに私を見るその瞳は、まだ記憶をなくしていない頃の慎吾くんと最後に話した時のそれとよく似ていたの。




「雛子さんの悩みは、僕の悩みでもあります。
雛子さんに不安があるのならば、その不安を一緒に解決していくのが夫婦なんだと思うんです」



私の不穏な態度は、上手く隠してるつもりでもみんな盆子原さんには気付かれていたんだ。


一緒に解決していくのが、夫婦。


なんてステキな言葉なんだろう。

だけどね…




「雛子さんとは、いつかは結婚したいと思っています。
僕の家内になっていただけるなら、その不安を一緒に解決させてもらえませんか?」



「…盆子原さん…っ!」




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