ひな*恋
盆子原さんの私に対する気持ちは、初めから本気で誠実だった。


本当に私を愛してくれて、本当に私を守ろうと一生懸命だったのよ。



だけど私は盆子原さんの事をステキな男性だとは思ったし、結婚するならこんな人がいいんだろうなとは思ったけれど、決して愛してるという感情は抱いていなかったの。




「…ごめん…なさい…」



初めての大人の恋愛にドキドキはしたけれど、それはときめきとはまた違う気持ちだね。


嬉しかったけど、それだけだ。



「ごめんなさいっ
私は盆子原さんに…何もしてあげられませんでした…!」



とてもステキな人だった。

私なんかで幸せにしてあげられるなら、いっぱい幸せにしてあげたかった。


だけど、愛してあげる事だけはできなかったの。


だって私には、本当に好きな人が別にいたから――――…!





「だから、ごめんなさい…っ」



「そんな、謝らないで下さい。
それは…単に僕が、雛子さんを愛しすぎてただけなんです。だから…もう謝らないで下さい」



「………………っ」




誰も傷付けないようになんて、都合が良すぎたんだよ。


生半可で、人の気持ちを受け取っちゃいけないんだ。



私はバッグから入れっぱなしにしていた指輪の小箱を取り出すと、それを盆子原さんに向けた。



「…ずっと苦しませていた事に気付かなくて、申し訳なかったです。
ありがとう…」



フルフルと頭を振る私から小箱を受け取った盆子原さんは、何も言わず病室を静かに出て行った。




それから私もしばらくは何もする事ができず、そのまま1人立ち尽くしていたの――――――…。









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