ひな*恋
結局、19時を40分過ぎてもアイツは来る事はなかった。


傘1本の為に3時間近くも待ってたなんて、バカみたいだ。




「久保店長。
傘、私のロッカーの所に置いてもらってていいですか?」



お客さんが来ていないうちに、私は厨房を覗き込むようにして傘を高く上げて見せた。




「ヒナ坊!お前まだそこに居たのか。
そのお客さんってのは来なかったのか?」



「ん…もしかしたら今から来るのかもしれませんが、これ以上は私も忙しいし…」



実際は特に予定はないので忙しいわけではないんだけど。

でもいい加減こんなに長く待ち続けるのが、ようやくおかしいと思えてきたのだ。



私は久保店長に傘を預けると、ペコリお辞儀をして職場をあとにした。



どうせ家は知らないんだから、返すとしたらここなんだ。

また雨も降ってないのに傘を持って歩くのは勘弁なので、ここに置いておけばいい。



また明日の仕事の時、アイツが来たら言えばいいだろう。



『私にだって予定があるのよっ』

ってね。



そう、思っていた。





そう――――…











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