ひな*恋
「ま、ないもんは仕方ないや。
じゃ、またね」



お釣りをそのままポケットにしまい込んだ彼は買った惣菜の入ったレジ袋を持つと、私に反対の手を軽く挙げて見せた。




「あ…ありがとう、ございます………っ」



うちの店を離れ家へと帰って行く彼。

そんな彼の背を、私はしばらくの間ずっと見送っていた。






「…って、あっ!
傘の事、何も話さなかったぁ!」



お礼はもう何度も言ったわけだし、モノは田原さんからちゃんと手渡してくれたわけだから別に問題ないんだけどね。



あーん、何か今日はいろいろやるせなかったなぁ。


何より、サラダの件は特に悔しいや。

せっかく私が作ったのになぁ。






「……………………」



アイツ、また明日も来るかなぁ。



明日はアイツ用に、サラダを1つキープしといてやろうかしら。


そうしたら、私の作ったサラダを…………





「ヒナ坊!
お客さんおらんのやったら、中入って片付け手伝えー!」



「ひゃぁ!
ただいまーっ」



久保店長のかけ声に、私は慌てて厨房の方へと駆け込んだ。



もぉ!
ビックリしたよぉ!




だけどこの時にはもう、昨日散々待ちぼうけを食らった事や腹が立ってた事は、すっかり忘れていた。



うーん、私ってば単純なのかしら?










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