曼珠沙華


「母さんは
 引っ越しに賛成だった?」



母は 何かに感づいたらしく
微かに小さな溜息を漏らし
軽く笑顔を見せた


「最初は 驚いたよ
 どうして 突然 転勤になるのか
 何か問題でも起こしたのかと
 不安にもなったよ

 でもね 今 父さんが勤務している
 営業所の所長さんが
 52歳の若さで亡くなって
 父さんに話が来たみたい

 亡くなった所長さんに
 厳と同じ年のお子さんが居る事を聞いて
 父さんは ひとつ返事で了承したんだって

 母さんは 父さんに
 付いて行こうって決めたの

 厳も 中学の入学前で
 転校させなくて済むって
 ちゃんと 厳の事も 考えているのよ
 何も話さない 父さんだけどね」


母の暖かい言葉は



僕の逃げ道を
塞がれてしまった


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