あの頃のように
「人員整理をしようという話になってる」

「…………」

「君はあの会社で、一番経験が浅いね」

「……………」


事実上の退職勧奨に近い脅し文句。


(今ここで俺に泣きついてみろ)


俺は口をつぐんで彼女の背中をじっと見つめて、反応を待った。


「……」


ほっそりした背中は何も語らず。

うつむいたまま、わずかに振り返って会釈して、ただ無言で歩き去った。


歩幅の小さいトコトコとした歩き方が以前のままで、懐かしかった。



(——脅してどうする。

あのときの仕返しに、彼女の優位に立ちたいのか、俺は)

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