あの頃のように
「……」


沙稀は黙って首を横に振る。


「——父ひとり子ひとりなんだろ?

それとも、それも嘘だった?」


「父はもう……死にました」


「……なんだって?」


言葉を失う俺に、沙稀は寂しげに微笑んだ。


「もともと病気で退職して——長くないって、わかってたから。

あの頃も、ずっと入院してたし」


悲しげに伏せられた目を見て混乱する。


そういやあの頃も、お父さんが入退院を繰り返してる、なんてことを言っていた。

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