あの頃のように
 * * *



バクバクバクバク……

暴れる心臓を抱えて、あたしはその場を足早に離れた。


(まさか、あの人が……)


あたしの前にふたたび現れるなんて。


もう二度と会うことはないだろうと思っていた、あの人。


あんなに会いたかったのに。

あんなに声が聞きたかったのに。


いざ顔を見ると、しっぽを巻いてあわてて逃げだしてしまった。



“まさか名前まで嘘だったとはね。

どうりでいくら探しても見つからないはずだ”


厳しい表情でとがめられているのに。

なぜかちょっぴりホッとしてた。

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