あの頃のように
知能以前に根本的なところであいつは間違ってる。

まず第一に国を愛し、国のために命を掛ける人物であるべきだ」


パパのいつもながらの長口上をぼんやり聞きながら、何でもないフリをして、一緒に記者会見ビデオを見ていたあたしは。

不意に視界がぼやけて、あわててハンカチを出した。

パパにわからないように、目尻をそっと拭く。


(もう、あの人には会えない)


“ユカ”の役目はもうおしまい。

ユカは消えて、あたしは沙稀に戻る。


――潤也さんのことなんて知らない、会ったこともない、沙稀に。


(さようなら、潤也さん)


「——ちょっと飲み物買ってくるね、パパ」

「ああ、うん」

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