あの頃のように
俺は思わず天を仰いだ。


「知ってたんなら、なぜ……ずっと、ここにいた?」

「……」

「ここにいる理由なんて、なかったのに」


そもそもここに来ることは、うちの会社に来られるように口をきく条件だったんだから。


「……」


沙稀は何も言わず、視線を床に落とす。

思わずその華奢な肩に手を掛けた。


(ここにいたかったから、いてくれたのか――?)


沙稀はうつむいたままだった。


やがてつぶやかれた、聞き取れないほどの小さな声。

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