あの頃のように
沙稀は小さくため息をつくと、つぶやくように言った。


「じゃあ、帰る」

「……ああ」


音もなく立ち上がると、ポケットからキラキラした飾りがたくさんついたキーホルダーを出した。

そこから外した合鍵をテーブルの上にそっと置いて。

カバンを手にして、ドアを開けた。


半ば振り返って軽く会釈すると、ドアの向こうに消えていく。


パタン。


小さな音をたててドアが閉まって。

かすかな足音が、だんだん遠ざかっていった。


打ち捨てられた合鍵だけが、テーブルの上に長く影を落としていた。



 * * *

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