あの頃のように
「過去のことはもういいって言ったろ」


潤也さんの声はやさしい。


「あのときの沙稀が、たくさんの人の思いを背負ってたことはよくわかったよ。

それに、親父の方が悪かったんだ。

君の決断は間違っているとは思わない。

だから、もういい」

「……でも潤也さんは何も悪くな……」

「もう、いいんだよ」


あたしの声にかぶせて、潤也さんはもう一度そう言った。


「長い間、俺を騙した、と君を恨んでた。

俺を利用しただけの女にもののみごとに引っかかった自分にね、ずっと腹を立てていたよ」

「……」


潤也さんはやさしく微笑んだ。

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