あの頃のように
まぁ、親父の七光りみたいなもんなんだよね。

何だかんだ言って、まだまだこの世界はコネが大きくてさ」

「ええー、いいじゃない、コネでも何でも。

そういうの実力のうちなんだろうし、すごいと思うよ」


予想外におだてられて、いい気になって俺はさらに続ける。


「……稲垣さんって人、知らないかな。都ケミカルの会長さん」

「都ケミカルは知ってる、超有名な会社だし」

「その人が親父の古くからの知り合いでさ。

ヤマト証券とメルスリー証券に口をきいてくれたんだ」

「……へぇ、すごいね。

いいなぁ、人脈があるって、うらやましい」


にっこり微笑んでそう言いながら。

ユカは、ふと視線をナナメ下に落とした。


得た情報を吟味するかのように。

無邪気な笑顔のすき間から一瞬見えた、どこか冷ややかな視線。


(……?)

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