あの頃のように
家に帰るといつも電気のついた明るい部屋で、温かいご飯が出来ていて。

エプロン姿の母さんが笑顔で出迎えてくれる。

「今日はどうだった?」なんて何気ない会話がスタートする。

……そんな俺にとって当たり前な世界が、ユカには無いんだ。



思わず、ユカの小さな手を取ってギュッと握っていた。


「ねぇ、ユカちゃん。

近いうちに、家に遊びにおいでよ。

天ぷらでも寿司でも鍋でも……

……何でも、みんなでテーブルを囲もうよ」


考える前にそう口から出ていた。


「潤也さん……」


俺を見上げるユカの大きな黒い瞳は、驚いたように丸くなり。

やがて、どこか悲しげに微笑んだ。


「……ありがと」


しみじみとした声。

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