あの頃のように
「親父は引退を決めたよ。

次はもう出ないって」

「……はい。

……ニュースで見ました」


重い口を開く。


久々に聞く細い声は、少し震えているように思った。

他人行儀な丁寧語にイラッと来る。


(やっぱり……

君にとっては、俺など単なる他人に過ぎなかった。


……そういうことか?)


——何を今さら。

そもそも最初から“ユカ”なんて偽名を使っていた時点で、そんなことは火を見るより明らかじゃないか。

ユカ名義のメールアドレスまでしっかり用意して。

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