あの頃のように
「……」

「乗せていってもいいけど、人に見られると何かとやっかいだしな」

「……」


言い訳がましく言う俺に、沙稀は無言で小さくうなずくと。

軽く一礼してコートをひるがえしてさっさと出ていった。


パタン、とドアの閉まる小さな音が部屋に響く。


(ずいぶん早く出るんだな)


どこかで朝飯でも食ってから行くつもりか。


(そりゃそうだな。ここには何もないんだから)


コーヒーくらいしかない。



(……バカだな。

俺は沙稀に何を求めてるんだ)

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