あの頃のように
まだ外は薄暗い。

何とかベッドの上に体を起こす。

今日は土曜日だけど、年6回の出勤日だ。


(コーヒーでも淹れて目を覚ますか)



簡易ドリップ式のコーヒーをコポコポ淹れていると、洗面所のドアが開いた。

出てきた沙稀はずいぶんな薄着で、まだ頭にタオルを巻いている。

俺が起きているのを見てどこかギョッとしたようだった。


「すごく……いい香り」


何か言わないといけないとでも思ったのか、ほんのちょっぴり微笑んで言う。



ふと気が付いた。

この部屋に来てから、沙稀が自分から口を開いたのは初めてだ。

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