ソウル◆チューン
「あの…あの、おはようございます。」
「あ?あぁ、おはよう。」

丁寧に挨拶され、頼子は拍子抜けした。子供好きな奈都は優しく微笑み返して

「おはようございます。はじめましてかしら?」

と尋ねると、車が止まって男性が先に降りて後部のドアを開けると女の子が降りてきた。

「あの、私、坂田加代と申します。お忙しいところを失礼致します。実はこの子が貴女にお礼を申し上げたいそうです。聞いて頂けませんでしょうか?」
「この子というのは…?」

それまで女の子が抱いていた熊のぬいぐるみが、モゾモゾと動いたかと思うと『がう。』と一声鳴いた。

「おい、それは本物か?子熊といえ、危険だぞ。」
「大丈夫です。クーとは…あっ、この子は熊五郎と申します。私はクーと呼んでおりますが、友達ですの。」
「そうか。」
「頼子、そこはつっこむところでも納得するところでもないわよ…」

奈都は呆れて脱力しながら言った。

「…わかっている。礼とは私にか?子熊に礼を言われるような事をした覚えはないが…」
「この子に聞いた話によりますと…二年程前に、山でクーの母親を助けて頂いたとか…」
「…二年前といえば、春先に父と山籠りの修行をしていた時か?それを何故知っている。」
『がうっ。』
「信じて頂けないかもしれませんが…普段は滅多に人前で話したり致しません。クーがどうしてもと申しますもので、聞いて頂けないでしょうか?」
「良いじゃない頼子。聞くだけ聞いてあげましょうよ。」

加代の必死な訴えに、奈都は助け船をだした。頼子も別に話せる事が気になる訳ではないので

「わかった。聞こう。」

あっさり頷いた。

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