ソウル◆チューン
イバラノアイ【dark side】
 世の中というものは中々面白い。妾が今より遥か昔、鬼と呼ばれていたのは、この国では異形の者であったからだ。
あの時、源頼光等が我が一族郎党を根絶やしにしようと謀った。
鬼といえど、短慮な所もあった酒呑童子は修行僧だという奴等の盃を受け、ご機嫌だった。
だがそれは【神便鬼毒酒】という鬼の力を奪うもので、酒宴にいた仲間逹は動けなくなり次々と殺されていった。
辛うじてその場を逃れた妾は奴等が立ち去った後、仲間の屍の中に戻って行った。

「星熊…虎熊…かね…熊…」

かつて酒呑童子の四天王と呼ばれた童子逹の肝を喰らった。動けはしたものの、妾も力を奪われていたのだ。

「馬鹿め…死んでは何も出来ないであろう?」

己の手をまだ仄かに温かい仲間の血で染め、最後に首の無い酒呑の体を見つける。

「ゥガァァ~ッ!!酒呑!!酒呑~!!!」

一目で分かった。あの人だと。
奴等も苦戦したのであろう。酒呑だけ首を刈られているのは。それとも都の主に証拠を見せるつもりなのか。

「赦せぬ!赦さぬぞ!人間共め!」

妾は仲間から集めた力を使い、酒呑の心臓を取り出して保存した。その力で僅かながら心臓が動きだす。

「本当の鬼の力を見せてやろうぞ!酒呑、待っておれ。」

妾は仲間逹を片っ端から喰らった。妾の体で共に戦おう。毒を喰らわば皿まで。毒に侵された仲間の体を喰うには危険も伴う。それでも構わない。
一片も残さず喰らい尽くすと妾はねぐらに戻った。
先ずは少しでも力を回復しなくてはなぬ。奴等が騙すなら妾も騙してやろう。
暫しの眠りで、何処まで回復するだろうか?
一人づつ殺してやる。最初に大将を殺してはつまらぬから副将らしきあの男にしよう。
「渡辺綱…八つ裂きにしてもたりぬわ…」

心に決めて眠りに着いた―
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