ソウル◆チューン
腹は今にも破裂しそうな程に膨れている。中から手足を動かす子がいる。
愛しげに腹を撫でていた茨木童子の手がピタリと止まった。

「臣!奥姫!我が子が誕生するぞ!支度しろ!」

何処へともなく言うと、二人が現れる。

「いよいよで御座いますね。茨木童子様。」
「こちらのお部屋へ。ご指示通りで宜しゅうございますか?」
「酒呑の前に妾が立ったら、腹を切れ。中まで傷付けるなよ?」
「畏れながらこの臣が切らせて頂きます。後は奥姫にお任せを。」

酒呑童子の心臓が保存されている部屋に着くと、臣が刀を取り出した。

「やれ。」

合図されると、刀を腹に振り下ろした。鮮血と共に膜に覆われた赤ん坊が出てきて、奥姫がそれを受け取り膜を裂いて子を取り上げた。

「おめでとうございます。茨木童子様。」

茨木は切られた直後に腹の傷を綺麗に修復して、差し出された我が子を抱く。
すると赤ん坊がパッチリ目を開き

「茨木童子、待たせたな。」

と言った。

「あぁ、この時を待ちわびておったぞ。お前の名は酒呑Jr。妾はこれより蕀と名乗る。」
「蕀か。似合っておるな。」
「御覧、酒呑Jr。お前の父…いや、お前の本当の心臓だ。」

硝子の筒の中に浮かぶのは、今も微かに動き続ける酒呑童子の心臓である。だがまだJrと融合させるには体が小さすぎる。

「そうか。外に出て疲れた。僕は少し眠る。」
「あぁ、おやすみ。」

スゥッと眠りについた姿は赤子であるのに、蕀と対等に話をしていた。知識は長い年月、腹の中で得ていたようだ。

「蕀様。血肉を摂られますか?修復に力をお使いになりましたし。」
「いや、良い。妾も少し眠る。奥姫。Jrと共に妾の寝所へ。臣は客人をいつものように洗脳しておけ。」

指示を出すと、いつもと変わらぬ足取りで寝所に向かう。

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