キモチの欠片
「いや、そういう訳じゃ……」
葵はバツの悪そうな顔をする。
「まぁ、いいよ。それにちょうどよかった。悪いけどこの酔っぱらいを家まで送ってやってくれない?俺、仕事の途中でバーに戻らないといけないし多分柚音は眠たいはずだから、頼めるかな?」
そう言ってあたしのバッグを葵に差し出す。
過保護な朔ちゃん。
あたしは一人で帰れるし葵だって断るに決まってるよ、なんて思っていたんだけど。
「分かりました」
バッグを受け取り、すんなり承諾した。
なんで?
朔ちゃんは満足そうに笑う。
「ありがとう、助かるよ葵くん。君なら引き受けてくれると思ってた。じゃあ、柚音またな」
あたしの頭をクシャリと撫でて歩き出した。
「またね。バイバーイ、朔ちゃーん」
手を振り叫んでると、グイッと身体を引き寄せられる。
「ほら、帰るぞ」
「え、葵もカラオケに行くんじゃないの?」
「行く訳ないだろ。いいからおとなしく言うことを聞け」
葵に支えられ、走っていたタクシーをとめて乗り込んだ。