キモチの欠片
「な、な、なにやってんのっ」
ワナワナと身体が小刻みに震える。
動揺しまくりのあたしとは反対に葵はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。
「ソースが付いてたから取ってやった」
平然と言う。
ホントになんてヤツなの。
羞恥で顔が火照る。
そんなあたしたちを見ていた周りの反応に耳を塞ぎたくなった。
「なに~、今の!」
「見せつけてくれるよね」
「河野さんもこんなとこでイチャイチャするなんて結構やるよね」
違う、違ーうっ!断じて違う!!!
あたしは決してイチャイチャなんてしてないから。
これは葵が勝手にやったことなんだから。
隣のテーブルの女子社員を見て首を左右に振り、これは誤解だと必死にアピールする。
だけど、それが全く通じなくて怪訝そうな表情を浮かべていた。
「ゆず、早く食わないと昼が終わるぞ」
葵はさっさと食べ終えて席を立ち、あたしの肩をポンと叩く。
そして。
「早く俺を好きになれよ」
耳元で囁き食堂をあとにする。
あたしにはそれが悪魔の囁きに聞こえた。