キモチの欠片

そのあと、あたしも速攻で食べ終え、逃げるように食堂を出た。
一応、隣のテーブルに向かって『付き合ってませんから』と言い残して。


なにが『俺を好きになれ』よ。
あんたはどっかのイケメン俳優気取りかっての。

頭がおかしくなったんじゃない?
そんなのでドキドキしてしまったあたしもどうかしてる。


「柚音、なにブツブツ言ってんの?それに顔が怖いから。はい、ニッコリ笑って」

香苗先輩があたしの頬をつつく。


「あ、すみません。ちょっと考え事をしてたので」

いけない、仕事中だった。

受付がしかめっ面でいたら会社のイメージが悪くなるよね。

思いの外、葵の言葉があたしの心に衝撃を与えている。

笑顔を浮かべ、前を向いた。


その日の仕事が終わり更衣室のドアを開けると遥が満面の笑みで待ち構えていた。


「ゆずちゃん。待ってたよ」

“ちゃん”付けで呼ぶなんて怪しすぎる。
今度はいったいなにを企んでいるのやら。
嫌な予感しかしない。

すでに私服に着替えた遥はじっとあたしを見てる。

「ねぇ、そんなに見られたら着替えにくいんですけど」

「あぁ、ごめんごめん。早く着替えて」

そう言うと遥は視線を逸らし、携帯を弄りだした。
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