キモチの欠片

「遠藤さん、ごめんなさい。足、痛かったですよね。あっ、靴が汚れてる」


思いきりヒールで踏みつけてしまい、黒の革靴も汚れていた。

咄嗟にバッグからハンカチを取り出してしゃがみ靴の汚れを拭き取った。


「……っ!柚音ちゃん、そんなことしなくてもよかったのに」


焦った声が頭上で聞こえ、立ち上がると遠藤さんは申し訳なさそうに眉毛をハの字にしていた。


「いえ、あたしの不注意で汚してしまったので」


微笑むと遠藤さんは少し顔を赤らめて手で口を隠していた。


「ホント、柚音はそそっかしいんだから」

呆れたような遥の声がする。

元はと言えば遥が詰め寄ってきたからでしょ、という文句は喉まで出かかったけど心の中にしまった。


「あの、よければこれからみんなで食事でもどうかな?」

遠藤さんが聞いてきた。
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