キモチの欠片

「なに、お前のその態度。先輩に対して失礼じゃないのか?」


遠藤さんは声を少し荒らげ、威圧的に葵に詰め寄ってきた。
あたしに言われた訳じゃないのに身体がビクッと震えた。
思わず葵のスーツの裾をキュッと掴む。

「すみません、そんなつもりはなかったんですけど……気を悪くさせたなら謝ります。あと遠藤さん、ゆずがビビってるんで大声を出さないでもらえますか」

葵は遠藤さんに怯むことなく、正面から向き合い慎重に言葉を選びながら話している。
そして、遠藤さんはハッとしたようにあたしを見る。

「ごめん、柚音ちゃん。怖がらすつもりはなかったんだ」

遠藤さんは葵から離れて距離をとった。

「これだけは言っておきますが、ゆずは二人きりで食事に行くことは絶対にないと思います。これ以上、無理強いするのはやめてやってください。お願いします」

軽く頭を下げあたしの手を引き、ちょうど着いたエレベーターに乗り込んだ。
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