キモチの欠片

来客が途切れた時間を利用し、パソコンに今現在までの来訪者を入力していく。

「ねぇ、さっき来られてたお客さん柚音に気があるのかも」

「え、誰ですか?」

不意に香苗先輩にそんなことを言われ、入力していた手を止めた。

「あれ?ちょっと待って、度忘れした。何度も来ているから顔は覚えてるんだけど……。えー、誰だっけ?」

首を傾げながら思い出そうとしている。

「トイレでたまたま会ったんだけど、その時に柚音のことを聞かれたんだよね。下手なことは言えないから当たり障りのない話をしたんだけど。ごめん、また思い出したら言うわ」

「分かりました」

入社した当初は、新しい受付嬢が珍しいのかよく声をかけられていた。
年配の人から若い人まで。

まぁ、年配の人は孫娘に話すような感じで『仕事頑張りなよ』という励ましの言葉。
若い人には『食事に行こう』と誘われて、その時は初めてのことだったので、アタフタして香苗先輩に助け舟を出してもらっていた。

最近は、減ってきているというかそんなにないんだけど……。

香苗先輩に話しかけた人が誰か気になるけど何十組も来客があったので、その中から特定するのは難しい。
気持を切り替え、やりかけていた来訪者入力の続きを始めた。

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