キモチの欠片
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ん……、まどろみの中、ゆっくりと目を開けると視線を感じ、隣を見ると葵が穏やかな顔をしてあたしを見ていた。
「あ、葵……」
「おはよ、よく寝てたな」
クスクスと笑いながらあたしの前髪を横に流し額にキスを落とす。
起き抜けでこの葵の甘ったるい雰囲気にドキドキしてしまい、真っ赤になっているであろう顔をフイとそらした。
「そういや花音さんに報告しなきゃいけねぇな」
ゴロリと仰向けになって天井を見つめた葵がボソリと呟く。
「えっ、ママに?一体何を報告するの?」
急に母親の名前を出され、一気に目が覚める。
そして、身体を起こし顔を覗き込んだ。
「ん?あぁ、俺たちが付き合い始めたこと。花音さんにはいろいろ協力してもらってたからな、ゆずの就職の話とか……」
やべっ、つい口が滑ったと葵がそっぽを向く。
「今なんて言ったの。就職って……もしかしてママにHYM商事を薦めたのって葵なの?」
ねぇ、と肩をユサユサと揺する。
バツが悪そうに無視を決め込む葵にしつこく食い下がる。