キモチの欠片
「いいから電話してみてよ。もう仕事終わってるんじゃない?」
しつこく言うので仕方なく携帯から電話をかけると数回コールが鳴った後、留守番電話に繋がった。
「残念だけど留守電になったよ。まだ仕事してるのかも」
そう報告すれば、ちょっと貸してと言って私の手から携帯を取り上げた。
「もしもし、梨音でーす。今、柚音と飲んでるんだけど、聞いたよ。よかったね、お互いのこじらせまくった初恋が実って。高校の時はどうなることかと本気で心配してたんだから。急に柚音を避けてさぁ、あの時の柚音の落ち込み方はすごかったんだからね!葵、柚音を悲しませるようなことはしないでね。あっ、結婚する時は私のところにも挨拶に来なさいよ」
留守電に言いたいことを言って満足したお姉ちゃんは満面の笑みで私に携帯を返してきた。
「葵に会えないのは残念だけど、今日はいいお酒が飲めたわ。話してくれてありがとね」
「こちらこそ仕事で忙しいのに来てくれてありがとう」
「何言ってんのよ。可愛い妹のハッピーな報告が聞けるならいくらでも時間を作るわよ」
ふふ、と優しく微笑む。
ホントお姉ちゃん大好き。
思わず抱きつくと、背中をポンポンと叩いてくれる。
「あたしもお姉ちゃんのハッピーな報告聞けるの、楽しみにしてるね」
「あー、そう……だね」
そう言って苦笑いする。
やっぱり、お姉ちゃんは自分のことは話してはくれない。