キモチの欠片
「美しい姉妹愛だな。今日はいい報告も聞けたから俺の奢りだ」
「いいの?」
「あぁ。前に柚音が悩んでた例の葵くんと上手くいったんだろ。少しは俺のアドバイスも効いたんじゃないのか?」
朔ちゃんは冗談混じりに言う。
「うん、そうなの!あの時、朔ちゃんにガツンと言ってもらったお陰であたしも素直になれたと思うし。ホントにありがとね」
「素直な柚音は珍しいな。梨音、明日の天気は大丈夫か?」
「ちょっと朔ちゃん!」
「あー、確か明日は曇りだったかな?」
あたしと朔ちゃんのやり取りを見ていたお姉ちゃんはクスクス笑いながら適当な返答をした。
カラン、とドアベルが鳴り一人の女性客が入ってきた。
「こんばんは」
朔ちゃんに軽く挨拶し、一番端のカウンターに座った。
常連なのか、朔ちゃんは注文を聞かずにコースターにビールサーバーからビールを注いだグラスを置いた。
もう開店の時間だったんだ。
そういえば、朔ちゃんはさっき“OPEN”のプレートをかけに外に出ていたから、他のお客さんも来るかも知れない。
「柚音、そろそろ帰る?」
「うん、そうだね」
あたしとお姉ちゃんは、朔ちゃんのお言葉に甘えて奢ってもらうことにした。
「今日はごちそう様でした」
「気を付けて帰れよ」
「ありがとう。また来るね」
バーを出て駅まで歩き、お姉ちゃんとはそこで別れ家路についた。