キモチの欠片

あっ、もしかして以前香苗先輩にあたしのことを聞いた人がいたっていうのは郡司さんなのかも知れない。
ハッキリとした確証はないけど、それしか思いつかない。

「本当に彼氏がいるの?断るための口実とかじゃないの?」

「違います。本当に彼氏はいます!」

疑いの目を向けられたことに腹が立ち、つい大きな声を出してしまった。

人目のある場所で彼氏アリ発言をしたことに羞恥を覚える。
おまけに会社近くということもあり、知り合いに聞かれていたらと思うとさらに恥ずかしさは倍増だ。
このまま走って逃げたい衝動に駆られる。

でも、どうしたら郡司さんに信じてもらえるんだろう。
言葉だけじゃ無理なのかな。
次の手を考えていたら、あたしの名前を呼ぶ声が耳に届いた。

「ゆず、こんなところで何してるんだ」

その声に振り返ると、不機嫌そうな葵がこっちへ歩いてくる。
えー、ちょっと葵の顔が怖いんですけど。

葵の視線はあたしを通り越して郡司さんに向けられている。
しかも、威嚇するように睨んでいる気がするんだけど……。

郡司さんは葵とあたしの顔を交互に見てハッとし、確認するように聞いてきた。

「河野さん、もしかしてその人が?」

「そ、そうです」

その問いかけに速攻で頷くと、郡司さんは顔を引きつらせ一歩後ずさる。
葵より郡司さんの方が年上なのに、あたしの隣りに立った葵の迫力に気圧されている。
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