キモチの欠片

バッグの中から携帯を取り出し画面を見ると着信相手は香苗先輩からだった。

どうしたんだろう。
あまり香苗先輩から電話をかけてくることはない。
珍しいこともあるもんだな。

それに今日は彼氏とデートしてるはずなんだけど。
少しの胸騒ぎを感じつつ、通話ボタンを押した。


「もしもし……」

『あっ、柚音。今どこにいるの？』

焦ったような声の香苗先輩に一気に不安が過る。
何かあったんだろうか。

「今ですか、知り合いのお店にいますけど……どうしたんですか？」

『私、会社の前で晃くんが来るの待ってたの。そしたら羽山くんが話しかけてきてビックリしたわ』

晃くんというのは、香苗先輩の彼氏の名前だ。
そのあとの内容に耳を疑った。

さっきまで朔ちゃんと話をしていただけに、葵の名前を聞いただけで背中に変な冷たい汗が流れた気がした。