キモチの欠片
ふと視線をカウンターに向けると心配そうな表情の朔ちゃんと目が合った。
『まぁ、いいけど。約束してたんなら羽山くんに謝っときなよ。帰っていく背中が寂しそうだったから……って晃くんが戻って来たから、また明日ね、柚音』
慌ただしく電話が切れた。
ツーツーツー。
電話が切れた携帯をじっと耳にあてたまましばらく動けなかった。
あの約束、ホントに葵は待ってたんだ。
どうしてあたしを食事に誘ったりしたんだろう。
ここまで葵が強気に出てきたのは再会して初めてだった。
なにか話があったんだろうか。
でも、あたしには話すことはないし。
黙って帰るということをせず、連絡ぐらいすればよかったかなと思ったけど、あることに気付いてしまった。
あたしは葵の連絡先を知らない。
携帯のメモリーには葵の名前すら入っていない。
葵と交流があったのは中学まで。
その時は携帯すら持っていなかったし。
高校を卒業し、葵と離れてからは二度と会うつもりはなかったんだから仕方ないよね。
携帯をバッグにしまい、はぁーとため息をつき頭を抱えた。