キモチの欠片
どっと身体の力が抜け、はぁー、と深く息を吐く。
拳を握っていた手を開いて見ると、掌にクッキリと爪の型がついていた。
どれだけ力を込めて握っていたんだろう。
それにしても葵がおかしい。
態度が普段と変わらなかった、というかいつも以上に優しかった。
髪をクシャリ、なんて。
朔ちゃんがよくしてるから慣れているはずなのに、初めて葵にされ不覚にもドキッとしてしまった。
ちょっと、葵にドキッとするってなんなのよ。
バカじゃない、あたし。
自分の気持ちも分からないけど、もっと分からないのは葵のことだ。
昨日のことを何かしら言ってくると思っていたのに。
中学の時、一緒に帰る約束をしてて待ち合わせの時間に少し遅れただけでブツブツ文句を言われたし。
ってこれはどうでもいい話か……。
あーっ、どうもスッキリしない。
葵の言動にいちいち振り回される自分が嫌で仕方がなかった。