キモチの欠片

仕事を終え、更衣室に向かう。

今日は久々に失敗してしまった。
ウッカリしてお客様の名前を聞き間違えて、苦笑いされた。きちんと謝罪して事なきを得たんだけど。
その人がたまたま優しい人だったからよかったけど、気難しい人なら完全に怒られていたかも知れない。

中途半端な気持ちで仕事をしていたからだ……と自己嫌悪。

香苗先輩から『ボーッとせず気を引き締めよう。同じ失敗は繰り返さず、引きずらないこと』と。

当たり前だけど、プライベートと仕事は切り離さないといけないと改めて実感した。


そう言えば今日の昼は葵に会わなかったなぁなんて思いながら制服から私服に着替える。
ロッカーの小さな鏡にうつる自分の顔はいつも以上に不細工に見えた。


「お先に失礼します」

「あ、待って。私も途中まで一緒に帰ってもいい?」


更衣室を出ようとしたら、着替えを済ませた香苗先輩が後を追ってきた。


「どうぞ。でも彼氏と約束してるんじゃないんですか?」

「今日は金曜だから直接うちに来る事になってるから、夕飯の買い物をして帰るの」

そう言って柔らかく微笑む。

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